「人魚姫」のパロです。人魚姫といったら普通は受けが人魚姫…が定番ですけど、
たまには逆に攻めが人魚姫ってのも読んでみたいなぁと思って(笑)
長くなりすぎたのでブログでなくてファイルにしましたが、長い割にはつまらない(−−)
あらすじだけで留めておけば良かったかもしれません(−−;)



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昔昔その昔。
海に人魚が暮らしていた時代のお話です。

人々が醜い争いを繰り広げる地上と違い、
広い海はハーレイ海王により、平和に治められておりました。

海王には沢山の子供がいましたが、中でもとびきり元気な
ジョミーという名の王子がおりました。
キラキラと輝く黄金色の髪を持ち、翡翠のような目を持つ
それはそれは美しい人魚です。

海に住む者は海の中のことだけに関心を持っていれば良い。
それがいわば海の常識でありましたが、ジョミーの心は遠く、遠く、
海の力の及ばない地上にまで届こうとせんばかり。
時折ニンゲンの船などが通りかかれば、ギリギリのところまで出て行って
揺れる波間に隠れながらそっと船の様子はニンゲンの姿などを
いつまでも飽きずに眺めるような変わり者の人魚でした。

ジョミー王子が何故ニンゲンなどに興味を持っているからというと、
ひとえに海の中で絶大な権力を振るう偉大なる魔女、フィシス様の影響でありました。
偉大なる魔女は、その強大な魔力の分、一風変わり者でもありました。

ジョミーは小さい頃から何かとこのフィシス様と気が合い、
決して皆が訪れないような魔女の住処まで頻繁に訪ねていっては
人間界の話を聞くのが大好きだったのです。

フィシス様はなにしろ人間界オタクなばかりでなくいわゆる腐女子、いえ腐魔女で、
人間界で殿方同士の愛欲を文章や時には絵画として綴られた書物、
「どうじんし」を収集コレクションしているのであります。
偉大なる腐魔女フィシス様の書庫にはそのような「どうじんし」が所狭しと
棚にギッシリ詰まっているのです。

フィシス様の書棚には様々な傾向の物語が詰め込まれており、
親指サイズの王子が王子様と恋に落ちる話だとか、
カエルに姿を変えられた王子がはたまた別の王子に接吻を受けてニンゲンに戻る話だとか、
赤い頭巾を被った少年が森に迷って狼に出会う話だとか色々です。

しかしながらフィシス様のお好みはいわゆる「おうどう」とは逆をゆくものらしく、
親指サイズの王子が本物サイズの王子を襲ったり、
乗っかられてしまうのはカエルに変えられている王子様の方だったり、
赤い頭巾の少年が高貴な狼を押し倒したりするお話がお好みでした。
しかしそのような傾向の物語の他にフィシス様が好んだのは
「おうじさまもの」と呼ばれる傾向のお話、
つまり実在する国々の王子達の間で愛欲が交わされるという傾向のお話です。
諸国の王子達を色々な美形に仕立て上げては愛を語ったり時にはカラダで確かめ合う、
そのような傾向の書物を好んで集められているのです。

たまたま年若く見栄えも良く、子供で好奇心旺盛なジョミー王子に
腐魔女は好きなだけ書庫の書物を読ませておりました。
なにせ人魚達は下半身がサカナですので、ニンゲンのようにムラムラくることもなく、
きたとしてもニンゲンのように体を繋げられるわけでもないので、
大した悪影響にもならないのです。
小さかったジョミー王子も色々と感化はされたわけですが、
なにしろニンゲンを間近に見たこともなく、得た知識を実行する機会もなく、
「へぇ〜」と感心しながらそれらの書物を眺めるばかりでした。

しかしながら、ジョミー王子がニンゲンを間近に見られる日は
意外と早くやってきました。

いつものようにジョミー王子が海の中を散泳していた折、海の上は折りしも
大嵐でありました。
勿論海中では、地上でどれだけ暴風雨が起きていようが大して関係ありません。
しかし、ジョミー王子は大きなニンゲンの船が木の葉のように大海原で揉まれているのに
いち早く気づきました。

ぴょこんと水面から頭を出して様子を伺うと、その大きな船の甲板に、
一人の美しいニンゲンがずぶ濡れで立っています。
海に住む者は皆一様に目が良く、その濡れて輝く銀髪に紅玉のような赤い瞳に、
ジョミー王子はついうっとりと見惚れてしまいました。

(なんて綺麗なニンゲンだろう)

すると、なにやら暗い表情で大海原を見つめていたそのニンゲンの視線が上がると、
海の中からそちらを伺っていたジョミー王子と視線が真っ向にかち合ってしまいました。

(あ〜っ!!見られた…かも?!)

しかしジョミー王子にとって大変幸運なことに、その途端に大きな船が
暴風雨に煽られ、そのまま横倒しに転覆してしまったのです。

ジョミー王子が見つめていたニンゲンも、当然甲板から放り出されて冷たい海の中へ…。
ジョミー達のような人魚は体の作りが海の暮らしに合っているので良いのですが、
ニンゲンが今の季節海に入れば体が冷えて大変よろしくないという知識は
ジョミー王子も持ち合わせています。
空気が無ければ人間は死んでしまうことも…。

何しろ船は大きすぎて、そのまま沈んでいく一方です。
中のニンゲン達を助けることは諦め、ジョミー王子はとりあえず
甲板から海に放り出されたあのニンゲンを探すことに集中することにしました。

暗い暗い海の中、投げ出されてゆっくりと沈んでいくところだったニンゲンを見つけ
ジョミー王子はなんとか海面まで引っ張りあげることに成功しました。

急激に襲ってきた暴風雨は、また同じ様に急激に収まりました。
何か意図があって、魔女か海王が起こしたものかもしれません。
雨雲はたちまち水平線の彼方に流れていき、静まった海原を月の光が照らします。

ニンゲンはぐったりとしたまま動きません。
どうやら甲板の一部だったらしい板がぷかぷか浮かんでいるところに、
ジョミー王子はニンゲンを引っ張りあげて横たえました。
良く見ると、ニンゲンの両手は鎖で繋がれておりました。
海に投げ出されて泳げなかったのはこのせいかもしれません。

「こんなに綺麗な人を鎖で繋ぐなんて…」

当然ですがニンゲンはびしょ濡れで、ショックからか息をしておりません。
しかし心の臓はまだ動いているようです。

とにかく前述したように斯様にフィシス様は大変ニンゲン贔屓でありまして、
海で遭難したニンゲンなどがいると真っ先に救助活動を行います。
そうして命を助けてやった見返りとして、ニンゲン界の「どうじんし」を
助けてやった者達から送ってもらうのであります。
救助してやった者達が入手した「どうじんし」を指定の海岸な砂浜に放置しておけば、
フィシス様の伝書亀が取りに来てフィシス様の手元まで届けるという仕組みです。

沢山のニンゲンを助ければ、沢山の「どうじんし」を入手できるではないですか!
その精神の元に、フィシス様はジョミー王子にもニンゲンの救助の心得を植え付けておりました。
動機がいささか…?と思わずにはいられないジョミー王子ですが、
人助けを行うことはやぶさかではないのでジョミー王子も一通りの救助法は身につけておりました。

冷え切って蒼ざめた唇にそっと自分の唇を当て、魔法の息を吹き込みます。
冷え切った体がたちまちほんのりと温かくなり、気を失ったままのその頬には
少しだけ血色が戻りました。

「良かった…」

ほっと胸を撫で下ろし、ジョミー王子は濡れた銀髪を額から払ってやりました。
見れば見るほど、空に輝く月の光を切り取ったかのような美しさ。
ジョミー王子は自らの心の赴くままに、ブルー王子の体中をぺたぺたと触ってみました。
なにしろジョミー王子が本物のニンゲンを助けるのは、これが初めてだったからです。
ジョミー王子が好奇心で触りまくるその指が乳首に触れると、
ニンゲンの唇から「ア…」とか細い息が漏れました。
そういえば腐魔女の「どうじんし」の中では、下半身についているモノを弄ったりすると
ニンゲンのカラダが反応したりするはずです。

ジョミー王子は好奇心に勝てず、その部分をそっと手の中に収めてみました。
特に変化は見られません…。ジョミー王子は今度はその手を少し上下に動かしてみました。
途端にニンゲンのカラダがピクリと動きました。
下衣をくつろげ、ほんの僅かに形を変えたニンゲンのそれを、
ジョミー王子は今度はさすったり突付いたり、時にはそっと舐めたりしてみました。
目を覚まさないニンゲンが、それでも鼻にかかったような熱い吐息を漏らします。

「ン、ンン…」
「綺麗…もっと見せて…」

こんなに美しいものをジョミー王子は見たことがありません。
ジョミー王子の下半身はサカナですので、ジョミー王子自身が
熱くなるということはありませんでしたが、ブルー王子が感じているであろう
「快楽」というものを、ジョミー王子も感じてみたいと切実に考えちゃったりしました。

もっと横たわったニンゲンの頬が染まっていくところを見たくて、
ジョミー王子は夢中でニンゲンのソレを愛撫しました。
「ア、ア…ッ」
月明かりの下、ニンゲンの背中がサカナのように美しく弧を描いてしなると、
ソレから熱い飛沫が飛び散って、ニンゲンの上半身にぽたぽたと零れました…。

結局気を失ったままのニンゲンを「しゃせい」までさせてしまい、
海水でとりあえず清めた後ジョミー王子はニンゲンを砂浜まで送り届けました。
なんとなくフィシス様のところに連れて行くのには気が咎めたからです。

しかし、ジョミー王子はそのニンゲンのことが気になって気になって仕方がありません。
なんとかして、もう一度会いたい。
それに…腐魔女の書物にあるようなことを、もっとあのニンゲンとしてみたい。
しかし、自分にはニンゲンについていたようなものが何もありません。
書物の中でニンゲンの殿方が組み敷いた殿方にイタすようなことを、
人魚の姿ではどうにも実行するのは無理というものです。
悩みに悩んだ挙句、ジョミー王子は腐魔女のところに相談しに行くことにしました。

何しろ腐魔女なフィシス様でございますから、既にジョミーが相談に行く前に
色々な情報を手に入れておりました。
ジョミー王子の出会ったニンゲンは、テラ王国のブルー王子であること。
ブルー王子の美貌はニンゲン界でもその筋の者達には有名で、
ブルー王子をテーマにした「どうじんし」も沢山作られているという話です。
「おうじさまうけ」の者達の間ではなかなか人気とのこと。

(いや…それは別に知らなくても良かったケド…)

しかし腐っても偉大なる海の魔女です。
フィシス様はジョミー王子のお悩みにも速攻でアドバイスをしてくれました。

「貴方をニンゲンの殿方の姿にしてさしあげますから、ブルー王子を喰っておしまいなさい」
「喰って…っ?!えぇ?ナニ言ってるの?」
「大体貴方はせっかく顔の造作も上半身の作りも良く、性格も素直で最適だというのに、
 下半身がサカナなのが台無しですわ。
 脚とナニを差し上げますから、地上に上がり、ブルー王子に接近し、
 えっちしておしまいなさいな」
「最適って…あのねフィシス…」
「サカナのままではブルー王子と愛を語る資格はございませんわよ」

…それは確かにそうなのです…。

ニンゲンと人魚では一生を誓い合うという意味合いが大分違います。
いや、精神的には多分同じことなのでしょうが肉体的にニンゲンとサカナが交わるのは
大変に…味気ないことでございましょう。
ジョミー王子はナンパ、いえ難破の折にブルー王子を撫で回して色々してしまったときの
ブルー王子の艶かしい息遣いやほんのり染まった白い肌を思い返していました。
自分もニンゲンだったならもっと色々してあげられたのに違いないのです。
元々ジョミー王子は好奇心旺盛で、フィシス様のせい、いやおかげで
人間界にも斯様に興味津々な人魚になってしまっておりました。
海の近くでさえあれば、人間界で暮らしてみるのも悪くないという気がするのです。

それに…ジョミー王子はあの時ブルー王子の両手につけられていた鎖が
非常に気になっていました。
あれはどう考えても他国の王子を丁重にお迎えするという扱いではありません。
どちらかというと虜囚…。
あの綺麗でか弱そうな人が…そう思うと、一刻も早く駆けつけて
酷いことをされていないか見張ってあげなければ、という気にもなってきます。

そういうわけで心が決まったジョミー王子は腐魔女の力を借りることにしました。

「ご心配なさいますな、陛下はわたくしがうまくダマくらかして…、
 いえよくよくご説明して差し上げますから」

いつもいつも海の中のゴタゴタに頭を悩ませて胃を押さえている父上のことを考え、
ジョミー王子はちょっとだけ父上が可哀想になりました。
しかし今のジョミー王子はそれどころではないのも確かです。

「良いですか、ブルー王子から快楽の絶頂の嬌声を搾り取ることが出来たら
 貴方の体は完全にニンゲンになれます
 そうすれば貴方はいつでもブルー王子の傍にいられて、いつでもブルー王子を
 気持ち良くしてさしあげられるのですわ
 でもその前にブルー王子の前で一言でも喋ったら、貴方はたちまちサカナに
 戻ってしまいますので、幾らブルー王子の体がキモチヨクても
 ブルー王子がイクまでは決して声を出してはいけません」

(それはかなり無理難題なんじゃぁ…)
ジョミー王子は口に出さずにぼやきましたが、フィシス様には当然聞こえません。
フィシス様はニヤニヤ…いえ、ニコニコと微笑みながらガラスの瓶に入った液体を
ジョミー王子に手渡しました。

「さあ、お飲みなさい」

ジョミー王子は一気にそれを飲み干しました。途端に体中が焼け付くように熱くなり
ジョミー王子の体は床に崩れ落ちます。
(毒でも盛ったんじゃないだろうな、このクソアマ)
などと思ったかどうかは知りませんが、ひとしきりうんうんと苦しんだジョミー王子が
気がつくと、下半身にはサカナの代わりに二本の脚が生えているではありませんか。
しかも…ブルー王子と同じ、アレがついてます。ぶら下がってます。本物です!!

「上半身とバランスの良い下半身しか作れないのですが、
 貴方の場合は上半身が逞しく出来ているので下半身もなかなかですわね。
 何しろ『おしり』のラインが完璧です。
 そして御覧なさい、このナニの美しいこと!
 普通の状態でこれくらいならばアノ時はきっとさぞかしブルー王子を
 悦ばせてあげられることでしょう」

ペラペラと一人で品定めをするフィシスを遮ることも叶わず、
ジョミー王子は一人で茹蛸のように真っ赤になっておりました。

「浜に伝書亀を送りますから、定期的に近況を書き送ること。よろしいわね」



荒れ狂う海で遭難したニンゲン…ブルー王子が警護という名の見張りの兵士達をつけられ
アルタミラ王国の砂浜を散歩していたところ、海辺に何か丸太のようなものが
打ち寄せられているのに気づきました。

「なんだあれは…ん?人?!」

見張りの兵士達が止めるのも振り切って、ブルー王子は砂浜に倒れている人影に駆け寄ります。

「君…しっかりしたまえ!」

鎖で繋がれたままの両手でもってゆさゆさと揺り起こすと、どうやらまだ息はあるようで
ピク、と動きました。
まだ子供…10代前半の少年のようです。

しかし一体全体一体どういう破廉恥な事情なのか、一糸まとわぬ姿…。
金糸に縁取られたまぶたがゆっくりと開くと、まるで翡翠のように澄んだ碧の目が
ブルー王子の顔に焦点を合わせ…、ブルー王子はいきなり若者にガバリと抱きつかれました。
必死に身を寄せてくる若者をやはり必死に引き剥がして視線を合わせると、
少年はひたむきな視線でじっとブルー王子を見るのです。
目は口ほどにものを言う…とは言いますが…。

少年は、自分が裸なのにそのときやっと気がついたようで、
真っ赤になったり真っ青になったり、一人で百面相をしていました。

(なんでよりによって裸なの僕!くそ、あの魔女め…!!)
内心で一人悪態をついているのは勿論ブルー王子の耳には届きません。

「君…大丈夫かい?どこから来たの?名前は?
 アルタミラの者には見えないけれど…」

さりげなく自らのマントを裸の肩にかけてやりながら、
見張りの者に聞こえないように小声で囁くと、少年は喉を指差しふるふると首を振ります。
ああ、と納得がいったブルー王子は傍らにいかつい顔をして立ちはだかる見張りに告げました。

「この子はテラから連れてくる筈だった僕の従者だ
 どうやら遭難のショックで声が出なくなってしまったらしい…
 まだ子供だし、いいだろう?」


言葉を発せないジョミーは、ブルー王子の強い口利きのおかげで、
お付の従者としてブルー王子の身の回りの世話をする役目を仰せ付けられることになりました。
外国の王子である自分に冷たくそっけないアルタミラの者達に囲まれているよりも、
海で拾った口もきけず得体の知れない少年に傍にいてもらったほうがまだ余程落ち着ける。
ブルー王子の周囲は、それほどに敵が多かったのです。
初めてニンゲンの世界で暮らすジョミーにとっては新しいことだらけでしたが、
王子の身の回りの世話をするくらいなら大して難しいことではなく、
若さ故の順応性も手伝って、ジョミーはすぐに新しい生活に馴染んでしまいました。

ブルー王子は海の向こうのテラ王国の出身でした。

テラ王国はアルタミラ王国に比べて国土の小さい島国です。
海に囲まれて平和に暮らしていた…筈なのですが、真珠の養殖に成功を収めたので
それなりに裕福になり、それに目をつけた諸各国、特にこのナスカ王国に
目をつけられて、侵略の脅威にいつも脅かされているのです。
この世界では、テラ王国で採れるような真珠は特に貴重で、世界中で尊ばれる至宝なのでした。

ブルー王子は「アルタミラ王国で保護」という名目で連れてこられたのですが、
結局は体の良い虜囚、人質なのです。
海上で嵐に遭い、これまでかと思ったのですが、なぜか一人だけ無事に
目的地のアルタミラ王国に流れ着いていたのです。

何故ブルー王子がわざわざ連れてこられたかというと、真珠の養殖を考案、
成功させた張本人だったからでした。
ブルーをこうして拉致することで、その技術を他国に渡すことなく独り占めできると
アルタミラ王国では考えたのです。

ブルー王子は全てを悟りながらも、どうすることも出来ずに溜息をつくしか出来ません。
自分が従わなければ、テラ王国が一体どのような仕打ちを受けるものか。

「真珠は確かに美しい海の宝だ…
 だけれども、それを狙って海を荒らすもの、争うものが多い
 僕はそれを止めたくて、人の力で真珠を作ることを考えた
 人の体を飾るものなら、人が作ることが理にかなっていると思ったんだ…」

「海での争いを収めたくて考えたことだったのに、結局それが更なる争いを
 増やすことになってしまった
 僕は人のために海が荒れることが辛くてならない
 僕のしたことは間違っていたんだろうか…」

ぽつりと寂しげにブルー王子が呟きます。
ジョミーはそんなブルー王子を見ると、胸が一杯になって抱きしめたくなるのです。

ジョミー王子はまだまだ子供で、腐魔女がそそのかすように真っ先にブルー王子を
「喰ってしまう」気にはなれませんでした。
こう、できたら始めはお友達のようなお付き合い、そして少しずつ交流を深めていって
恋人同士となり、お互いの意思をきちんと確認した上で体を繋げたい…
そのように考えておりました。
腐魔女がジョミー王子の本心を聞いたら「んまぁ青いことホホホ」と
笑い飛ばしたことでございましょう。
しかし確かにジョミー王子は意外と純情だったのです。

ブルー王子の身の回りの世話といっても、食事は係の者が作りますし、ジョミーは給仕するだけです。
しかしブルー王子は一人で取る食事は味気ないといって、ジョミーにも相伴することを求めました。
ジョミーは地上の食べ物が珍しくてパクパク食べていましたが、
ブルー王子はそんなジョミーを優しい笑顔で眺めながら、自らは食は大変細い方でした。

ブルー王子の湯浴みを手伝うこともジョミーの仕事の一つです。
海の中では湯浴みなどという習慣は勿論する必要がないのですが、
暖かいお湯に、香りの良い「せっけん」を使ってブルー王子の体を洗うことは
ジョミーにとっては大好きな日課の一つです。
勿論ブルー王子は大抵のことは自分で出来ますしやろうとするのですが、
せめてそれくらいはやらせて欲しいと、ジョミーは声を出さずに
目だけで主張し、ブルー王子はいつも気持ち良さげにジョミーの手に身を任せます。

このような虜囚の身にありながら、どこの馬の骨とも分からない自分を
ここまで信用してくれる…一体全体、鈍いのか図太いのか分かりません。
ひょっとしたら、自暴自棄になっているだけなのかもしれません。

「君の髪は、美しい黄金色だね」

ブルー王子は、自らの体を洗うジョミーを見上げながらそう言います。

「キラキラ光って、まるで本物の金細工のようだ
 君の目は、まるで磨き上げられた翡翠のようだ
 それになにより、僕は君の笑顔が好きだよ
 アルタミラの者達が目の色を変えて奪い合う、どんな財宝よりも
 君のように美しいものは世界に沢山あるというのに…寂しいことだ」

口がきけないからでしょうか、ブルー王子はまるで自分自身に言い聞かせるように
ジョミーのいる前で沢山本音を零します。

(…僕の目には貴方のほうがよっぽど綺麗に映ります、ブルー王子)

本物の銀細工のように輝くブルー王子の髪、輝くルビーのような瞳。
ブルー王子だって十分美しいと思うのに、ブルー王子にはどうやら自らの容姿は
全く考えにも及びつかないようです。
ブルー王子の目は、自分以外のこの世で値段のつけられない美しさを見つめ、
守っていきたいものを賢く理解しています。
ニンゲンは、もっと欲の深い生き物だとジョミーは思い込んでいました。
しかし、ブルー王子の心の清らかさといったら、海の中に住むどんな者だって
太刀打ちできない素晴らしさ。

ジョミーはブルー王子の傍にいられるだけで、もう幸せで何もいらないと思ってしまうのです。

一方ブルー王子の方はというと、勿論まんざらではありません。
ブルー王子は自国では「海バカ」と仇名をつけられるほどに海の研究が好きでした。
あまりにも海が好きなので、呆れられて皆に放って置かれるほどでした。
それなので、ブルー王子は良く一人で海辺を散歩していることが多かったのです。
しかしジョミーは海の一族ですから、ブルー王子が沢山話してくれる
海の話も、つまらないどころか、こんなに海を愛してくれるニンゲンが陸にいるというだけでも
とても嬉しくて、いつも楽しそうにブルー王子の話をにこにこと聞いてくれるのです。


(ア〜、それにしてもブルー王子と恋人になれるまで一体どれだけかかるんだろう)

勿論ジョミーの第一目的は、「ブルーと契ること」にあります。
なんとか自分が声を出さずにブルーと契り、要するにブルーにアンアン言わせながら
イカせてしまえば、自分の体はいつまでもニンゲンのままでいられるのです。

しかし、ブルーも自分のことを想っていてくれないのであれば、
ニンゲンになれたところで仕方がありません。
少しずつお互いを知っていきながら、絆を深めていければ…
ジョミーはそう思っていまし、時折海辺に投げ込むフィシス様への定期報告にも
そのように書き綴っておりました。
腐魔女は「はーれくいんろまんす」なる書物も大好物なので、
今のジョミーのように初々しい片思い日記でも満足している筈、です、多分…。
いまや全身で恋をしているジョミーは、いつか自分がブルーを幸せにすることしか
頭にありませんでした。

しかし世の中の流れというのは不条理なもので、ある日ブルー王子は
扉の向こうで兵士達が話しているのを耳にしてしまうのです。

「おい、聞いたか。テラに海軍が派遣されるとさ」
「ほんとか。ついにテラを完全に潰すつもりなんだな」
「ブルー王子さえ手に入れれば真珠は幾らでも作り出せる
 そうなればテラは邪魔なだけだからな…略奪の上皆殺しだろうさ」
「となればブルー王子殿下も後ろ盾を失って王子じゃなくなるわけか」
「そういうこった。宝を作る技術さえ手に入ればブルー王子だって用無しだ
 民間人、いや奴隷って立場になるんだろうな」
「そいつはありがてぇ…どうせなら今のうちに味見しちまわねぇか」
「他にも狙ってる奴がいる筈だ、明日の夜なら非番だから皆を集めてやっちまうか」


そして兵士達の声は靴音と共に遠くなっていきました。
ブルー王子も馬鹿ではありません、あまりにもあまりな話の内容に
血の気を失って部屋の真ん中に座り込んでしまいました。

テラに攻め入る…。
もともとテラ王国は平和な国で、戦いを嫌う国です。
アルタミラ王国ほどの海軍に攻め込まれたらひとたまりもありません。

貧血を起こして倒れそうな自分を叱咤しながら、ブルー王子は今自分がなすべきことを
必死で考えました。
…が、何も良い考えは浮かびません。
今のブルー王子はあまりにも無力でした。

しかし一つだけブルー王子の決意は固まりました。
どのみちテラが滅びるのであれば、ブルー王子の命には人質としては何の価値もなくなる。
むざむざ生き延びて、自分の持つ知識によってアルタミラ王国に富を築かせるつもりはない。

それならば、テラの民が滅びる前に自らの命を絶ってしまおうと、ブルー王子は考えたのです。

手の関節が真っ白になるほど手を握り締め、ブルー王子は立ち上がりました。
最後に…身の回りの世話を甲斐甲斐しく焼いてくれた金髪の少年に
一言でもお別れを言わなければと思ったからです。
しかし、塔の中のどこにも少年はいません。
時々少年はそうやってフラリと消えることがありました。
ひょっとしたら海辺かもしれない、とブルー王子は外に足を向けました。

船もなくてはどのみち脱出することは出来ないため、今では兵士がつききりでなくても
砂浜を散歩するくらいはさせてもらえます。
ブルー王子はサクサクと砂を踏みしめて少年を探しました。

と、砂浜が岸壁に切り替わりました。
その向こうに少年が見えます…。
脅かさないようにそっと近づいていくと、少年は一人ではなく、
なんと大きな亀と顔をつき合わせているようです。

(亀…??)

足音を極力立てずに、気づかれない距離までゆくと、ブルー王子は聞き耳を立てました。

(亀が…喋っている…しかも、女性の声で…!)




ニンゲン界の政治の動向も全てお見通しの腐魔女は、なかなかブルー王子と
契ろうとしないジョミー王子に腹に据えかねて、最新情報を盾に
ハッパをかけているところだったのです。

「とにかく、貴方も一介の王子ならば男としてさっさとお心をお決めなさいませ!
 ブルー王子と契ってしまえば、無事にブルー王子をテラに連れて帰れるのですよ!
 王族と契りを交わした者には海の加護を与える権利ができるのです
 ブルー王子とテラを救いたければ、さっさと契っておしまいなさい!」

(そ…そんなこと、言ったって、フィシス…)

「貴方が時間をかけてブルー王子と絆を深めていこうとしているのは存じておりますわ
 でもぐずぐずしていたらテラは攻め入られ、ブルー王子は帰るところをなくしてしまうのです
 貴方、好きな相手にそのような悲劇を味合わせても良いとお思い?」

(そういうわけじゃないけど…)

「伝書亀に、秘伝の媚薬を持たせましたわ
 これを使えば、いかなカタブツでもすぐにメロメロになり
 気に染まない相手だろうがなんだろうがアンアン啼かせて差し上げられます
 貴方のような初心者でもスム〜ズに一発」

(一発って!一発って!お下品すぎるよ、フィシス!!)

「これさえ飲ませてしまえばもうブルー王子のピーをピーしてピーすることだって簡単に」

(ピーをピー…………)

放送禁止用語を多用して構わずまくしたてる亀、いやフィシス様に、
ジョミーは頭を抱えてしまいました。

フィシス様から、アルタミラ王国の動向を聞いたにも関わらず、ジョミーには
今ひとつブルー王子に襲い掛かって乗っかる勇気が出ません。
だって…ジョミーは実にロマンチストでしたので、もしブルー王子が
自分がブルー王子を想うほどに自分を想っていてくれなかったら…と想うと
無理強いすることだけはどうしてもしたくなかったのです。




一方、聞き耳を立てていたブルー王子ですが…。

「…!…!」

ざぱ〜ん、ざぱ〜んと打ち寄せる波に、ところどころ良く聞き取れません。

「…とにかく!貴方も…王子なら…お決めなさいませ!
 ブルー王子と契ってしまえば…貴方も……帰れるのですよ!
 そしてテラを海の力で…守護…可能…!」

「……の媚薬…
 気に染まない相手でも…スム〜ズに…」

(王子?彼が??そういえば確かに立ち居振る舞いにはそれなりの気品があったような…)
(帰れる…彼も人質のような立場なのだろうか…)
(契る…それって、僕と???)
(そうか…僕と契れば彼は国に帰れるんだ…それをしないのは
 僕が彼にとってどうしても気に染まない相手だから…)

とにかく色々なことがありすぎて、ブルー王子の頭は大変混乱しておりました。
なので、ところどころしか聞き取れない亀の声を聞いて
内容を全く誤解してしまったのも無理からぬところでございましょう…。


さんざん亀、いやフィシス様にどやされてぐったりと疲れ切ったジョミーでしたが、
亀に渡された媚薬の瓶とやらはとりあえず引き出しに放り込み、
それでも健気にブルー王子の食事の給仕をし、湯浴みを手伝いました。

湯浴みを済ませ、ほかほかと湯気まで立ちそうなブルー王子は、
珍しいことにジョミーに手ずから飲み物を勧めました。

「アタラクシアの果実酒だそうだ。なかなか美味しいらしいよ」

ジョミーに杯を渡し、ブルー王子は自分も杯を持ち上げます。

「今まで君にはとても世話になった…感謝している」

(…?)

いつもと何か違うようなブルー王子の目に疑問が浮かびましたが、
喉が渇いていたジョミーは渡された杯を一気に飲み干しました。
続いてブルー王子も一息で杯の中身を自らの喉に注ぎ込みます。

(…あれ…?)

ジョミーは急に自分の体が熱くなるのを自覚しました。
体温が上がっただけではありません、呼吸もなんだか速くなり、心臓もばくばく言い始めます。
そしてなにより…アレが、体の芯が、熱く、固くなってきたではありませんか。

(あれ…?あれ、なんか…おかしくない?)

いきなりの自分の体の反応に戸惑い、ジョミーはブルー王子を見やります。
すると、何故かブルー王子も頬を染めて息を荒げているではありませんか。

「悪いとは…思ったけれど、君の話を、聞いてしまったよ」

(…!まさか…!)

「僕と契れば、君は故郷に帰れるんだろう?
 でも僕と契るのなんて、嫌なんだろう?
 だから、君が貰ってきた媚薬とやらを杯に入れたんだ…
 だって、明日になれば、僕は…
 …とにかく、明日になる前に契りを交わさねばならないからね
 せめて君だけでも無事に逃がしたい」

なんということでしょう。
ブルー王子は、どうやらジョミーがブルーとえっちするのが嫌で
伸ばし伸ばしにしていたと思い込んでいるようなのです。
二人で媚薬に酔った勢いならジョミーもそれほど嫌ではなかろうと、
ブルー王子はそんな見当違いのことを考えているようなのです!

(あの…!!!色々と、誤解があるようなんですが!!
 あ…、でも、どうしよう、体が…)

沢山のことを弁明したいのに、勿論言葉を出すわけにはいきません。
さすが腐魔女の送って寄越した媚薬の効果は抜群です。
赤くなってパクパクとサカナのように口だけを開け閉めするジョミーの前で、
ブルー王子は潔くローブを脱ぎ捨て、生まれたままの姿で大胆に脚を開き、
媚薬の効果か、ジョミーが今まで見たこともないような
なんともあられもない姿でベッドに横たわるではありませか。

(わぁ〜!!!駄目だよブルー!僕の前でそんな格好しちゃ!)

そしてブルー様ときたらそっと手を伸ばし、潤んだ瞳でジョミーを見ながら、
ジョミーのいきり立ったナニに触れたりしちゃってるのです!!

(ブルーが、僕のものに、さっさっさわっ……)

そんなことされちゃって、ジョミーは声を堪えるだけでもう精一杯なのです。

「嫌かもしれないけど、我慢して…?
 僕もその、初めてだけど…
 ちゃんと君が気持ち良くなるよう、頑張るから…
 せめてもの、僕からの恩返しだ」
「…!」

(ブルー!そんなことしなくても、僕は…!!)

なんとかして誤解を解きたいのですが、しかし声だけは出すわけにはいきません。
その上、目の前にほのかに湯上りの香りをさせながら自分の体を開こうとする
ブルー王子を目の当たりにして、もうこれ以上耐えることなど出来ません。
ギリっと唇を噛み締め、ジョミーは媚薬に翻弄されるまま、据え膳に飛び掛りました。


一旦理性が飛んでしまえば、若い体はとどまるところを知りません。
しかも目の前の肉体は、あの夜のように意識を失った冷たい体ではなく
しっとりと汗ばんでほんのりと石鹸の香りを漂わせる、欲情した体です。
媚薬に酔わされ、ブルー王子もいつもとは全く違った妖艶な姿でその身をくねらせます。
そんなブルー王子の上で、ジョミーはもう無我夢中で腰を振っておりました。

(ブルー、あ、どうしよう、気持ちいい、気持ちいいよ…っ)
「もっと…もっと、あ、もっと、激しく、お願い…っ!」
(あ、も、ダメ、だよ、我慢、できない…!声、出ちゃう、どうしよぅ…!!)
「あ…あ、あ、アァ――――ッ!!!」

ことさら強く身を捩り、ブルー王子がその中心をふるふると震わせて
白い液体を撒き散らしながら絶頂を迎えます。
その瞬間、ブルー王子の体内にきゅうっと引き絞られ、ジョミーは初めて
それまで必死で堪えていた声を漏らしながら、生まれて初めての「しゃせい」を
してしまいました。

「…く、アッ!!」
(ニンゲンのえっちて、こんなに…気持ちのいいものだったんだ…)
「はぁ、はぁ、は…」

室内を二人の荒い息が満たします。

(…まずい、今僕、声出しちゃった…?間に合った…?)

恐る恐る自らの下半身を見下ろしてしまったジョミーでしたが、脚はそのまま、
ナニもブルー様の体内に突き入れられたままです。
そしてブルー様の体と自分の体がなにやらキラキラと薄く光る光に包まれていることに
気づきました。

海の王族と契りを交わした証です。
そして、どうやら自分が声を漏らす一歩手前でブルー様から「ぜっちょうのきょうせい」
の声を搾り出すことに成功したらしく、自らにかけられた変身の魔法が
完全になったことをジョミー王子は知りました。

「ブルー…ブルー!」
「…君、声が…?!」
「ああ、これでやっと貴方に何もかも伝えられる…ブルー、僕の名はジョミーです」
「ジョミー…?」

絶頂を極めたばかりで、まだ体も繋がっているというのに凄い勢いでまくし立てられ、
いまひとつ頭が良く回っていないブルー王子様です。

「あぁ…貴方が好きです、好きです…全然足りません、もっと抱いていいですか?」
「え…そ、それは構わない…けど…」
「好きです、ブルー…!貴方は?貴方は、僕のこと、好きですか…?」
「うん、好き、好き…っ」

二の句も告げる暇もなく、ジョミー王子はブルー王子に再度圧し掛かると、
更にブルー王子を貪り続けるのでした…。


その後どうなったかというと…。

ブルー王子はジョミー王子に連れられて無事にテラ王国に戻りました。
世界でどんなに船足の速い海軍も、海の一族にはかないません。
全くそうと知らずに伝説の海の一族と契りを結んだブルー王子は、海の守護の力を手に入れました。
四方を海に囲まれたテラ王国に、邪な目的を持つ者は
どこからか不思議な風と嵐がやってきて、高波に飲まれてしまうか
逆方向に流されて、決してテラ王国に辿り着けないのです。

ブルー王子はジョミー王子の力を借り、大好きな海について
一生懸命勉強する毎日です。

腐魔女フィシス様は、ジョミー王子から受け取った片思い日記を元に
「どうじんし」を作られたという話です。
その内容にはかなり脚色が加えられており、ブルー王子が見れば卒倒するような中身で
あったとかなかったとか…。


そんな平和な海の物語。