鬼畜ブルー様と奴隷ジョミ・塔編と、エピローグ編の間に挟まる「リハビリ編」です。
リハビリに頑張るブルー様と、それを見守るじょみさんのお話。
思いつくエピソードいちいち全部漫画にするのは無理!ってことで小説もどきにしてみましたが
長くなりすぎたのでいつものブログでなくファイル形式で…。
一晩で一気に書いたので変なところとか一杯あると思います〜がご容赦くださいませ…(−−;)





鬼畜ブルー様と奴隷ジョミ・リハビリ編 
		

テラが王国として崩壊してから、半年の月日が経った。


戦火から逃げるように移り住んだここは、いわば母上の実家だ。
母上は元々この地方一帯を治める豪族の出身で、お忍びで地方の視察に来ていた王
(つまり僕の父上だ)に見初められて王宮に入ることになったのだ。
娘が王妃という身分になったことは確かに喜ばしいことではあったのだろうが、
祖父にとってはそのような名誉や地位よりも身近に大事な愛娘がいてくれたほうが
ありがたいという気持ちがあったらしい。
都から落ち延びた僕達を快く受け入れてくれただけでなく、ゆくゆくは僕が
祖父の代わりに領主の地位を継ぐという話までついている。
テラ王国に比べれば領地は小さいながらも、代々祖父の一族は一国の主のごとく
民の信頼は厚く、過去何度か仕掛けられた侵略戦も全て退けてきた。
静かに暮らすには理想的な場所だ。



父上も、若い頃はその寛大さと公明正大な判断力とで、民衆からその王としての力量を
崇められていた時期があったらしい。
でも、僕はそのような父上を知らない…。
僕が生まれてから父上は変わっていったと聞かされた。
…正確には、ブルーがナスカに連れて来られてから、らしい。

後から聞いた話だが、テラから連れて来られた王子にナスカの王がたぶらかされ、
入れあげた挙句に堕落したという噂はあながち的外れでもないらしい。
父上はブルーに執着したあまりに、最後の方では国王としての義務を半ば全て
放棄していた状態だったと聞いている。
挙句にテラに攻め込まれてそのまま国自体がテラの手中に落ちてしまった。
王族の子弟というのはもともと乳母や従者達に囲まれて育つことが多いため、
実の父親の姿を身近に見かけないことをおかしいと思ったことはなかった。
これらの事実は、ここに来てからリオが母上のいないところでこっそり教えてくれたことだ。



でも、僕は分かるような気がする。
ブルーがもし根っからの娼婦のように王の寵愛を注がれる自分の立場を
喜んで受け入れるような人物であったならば、父上はきっとそこまで堕落することはなかった筈だ。
しかしブルーはどこまでも気高く、矜持を失わなかった。
だからこそ自らの運命を甘受することが出来ず、自分の身を呪い、心までもが歪んでしまったのだ。
そして皮肉なことに、そのような誇り高いブルーだからこそ父上もあれほどまでに
囚われてしまったのだ。
国を統べるという自らの責務を忘れてしまうほどに…。
まさに悲劇だったとしか言いようがない。

ブルーの人生をあれ程までに汚した父上を憎んでいないといえば嘘になる。
でも…その父上も亡き今、僕はブルーのことだけを考えるようにしている。


ブルーを連れ出したとき、僕は正直言ってひょっとしたらブルーは一生歪んだままで
立ち直れないかもしれないと覚悟を決めていた。
一生自分を憎み、僕を憎み、世の中の全てを憎み、そうやって何もかもを呪いながら
生きていったとしても、僕はずっとブルーの傍にいるつもりだった。
同情、自分の父親がしでかしたことに対する贖罪の念、そういう考えもなかったわけじゃない。
でも、理由なんかどうでもよかった。
僕はただ、ブルーの傍にいたかった。
僕を憎むことでブルーに生きる理由ができるというのなら、それも甘んじて受ける覚悟だった。



でも驚いたことに、ブルーは僕の想像以上に柔軟な姿勢で新たな人生の転機を受け入れた。



テラが崩壊したあの日の混乱のさなか、宮中の外れの塔の近くの馬舎から
馬を奪ってひたすらこの地まで駆けた。
その間ずっと気を失っていた状態のブルーを抱えて…。
無理もないと思う、ブルーは怪我もしていたし、暴行も受けており体力を消耗していたのだから。
王族なのに身の回りの世話をしてくれる者達も誰もつけてもらえず、
臣下の者に混じって奇異な視線に耐えながら食事を貰いに行くことに耐えられず、
殆ど食べ物を口にしない日も多かったという。
僕を拷問にかけた日の夜などは熱を出すこともあったそうだ…。

成人男子にしてはあまりにも軽すぎる体をあてがわれた寝室で手当てしている間も、
ブルーは熱を出して寝込んだままだった。僕はその夜はブルーの隣で手を握って寝た。
目を覚ましたら、ブルーがなんともいえない表情で僕をじっと見ていたけれど、
彼は何も言わなかった。
弦は切れてしまっていたけれどとにかく一緒に持ってきたブルーの竪琴を
壁に立てかけておいたのを見て、ブルーはほっとしたように目を伏せた。
後から知ったことなのだけれども、あの竪琴はブルーの母上の唯一の形見なんだそうだ。


僕がブルーを連れてきたのを見て、既にこの地に到着していた母上は大層喜んだ。


自分の命の恩人であることも確かだが、母上はまだ小さな子供の身で
幽閉されていたブルーのことをずっと気にしていたらしい。
母上は何も知らないように振舞っているが、ひょっとしたら実は何もかも知っていて、
言わないだけかもしれない。

母上は息子の自分が言うのもなんだけれど、とても不思議な女性だ。
自らの数奇な運命を全て受け入れ、抗わず、常に優しい微笑みを絶やさない。
まるで自分の子供のようにブルーを扱う母上に、ブルーも最初は随分困惑したようだ。
なにしろブルーは今まで他人から話しかけてもらった経験すら殆どないのだから…。
ブルーとは口を聞かぬよう、父上がきつく禁止令を出していたのだ。
唯一会話を交わすことができた(会話と呼べるようなものではないが…)相手は父上のみ。
父上に全てを支配されていた状態で13年間も生きてきたのだ。

とにかく、ブルーが来てくれたことを素直に歓迎する母上の無邪気な様子に、
ブルーも僕もとても救われたことは間違いない。



自分なりに覚悟を決めていたのかもしれない、ブルーは次から次へと掲示される僕の提案を
殆ど何の反論もせずに受け入れた。
邸宅は広く部屋はいくらでも余っていたが、ブルーと僕の部屋は
扉を挟んで続き部屋のようになっている、隣同士の部屋にしてもらった。
仕切りの壁の扉を開けて僕の部屋を見せたときのブルーのほっとしたような顔が今でも忘れられない。

いきなり新しい環境や人間関係に放り込まれたのに、ブルーはとても頑張ったと思う。
口数こそは少ないけれど、自分の置かれた状況でするべきことをいつも真剣に考えている。
当初僕はどこに行くにも必ずブルーと一緒に行動するようにした。
ブルーの過去を知っている者達がいたとしても、この屋敷に仕える者達は皆口が堅く、
信用できる者ばかりだ。
ブルーやブルーを連れてきた僕にに関して口さがないことを言うものはいない。
あの澱んだ空気で満ちていたテラの宮中とは大違いだ。




僕は今でも覚えている、奴隷としてテラに連れて来られて初めてブルーと会った日のことを。



ブルーがある日奴隷部屋に僕を見にやってきたのだ。
そのときのブルーは純粋な好奇心で、ナスカ王の息子である僕を見に来たのだと思う。
僕はまだ14歳になったばかりで、王族の子弟として処刑される年齢の
本当にぎりぎりのところで命が助かったのだ。
育った環境を考えれば無理もないけれど、18歳のブルーは、僕と同い年か、年下にすら見えた。

実は僕はナスカにいたときに一度だけ子供の頃にブルーを見かけたことがある。
女の子のように綺麗だったことを今でも覚えている。
その面影をそっくりそのまま残したブルーがいきなり奴隷部屋に現れたので
とてもびっくりしたのだ。

僕はブルーに見とれてしまって、何故そんなにじろじろ見るのだと
少々不快そうにブルーに聞かれた。
「貴方があまりにも綺麗だから…」と僕は答えた。
僕はまだ子供で世間知らずで、綺麗という言葉が褒め言葉以外の意味を持つことがあるなんて
考えてみもしなかったのだ。

しかし僕の台詞を聞いた途端、奴隷頭の兵士が下卑た表情で嘲笑った。

「ほほぅ…お聞きになりましたかブルー殿下、まだ子供でもさすがはナスカ王の子、
 血は争えぬものですなぁ」
「これはさぞかし将来が楽しみで…」

僕は一体何を言われているか分からなかった。
しかし、兵士の言葉を聞いた瞬間、ブルーの顔色はさっと変わった。
赤くなり、青くなり、それから全身の血の気が引いたように蒼白になった。
まるで蝋細工の人形のようだった。
そしてあのルビーのような美しい目に燃え滾るような憎しみの色を乗せて僕を睨み付け、
さっさと出て行ってしまった。
ブルーから拷問を受けるようになったのは、それがそもそものきっかけだった。

僕がそのやり取りの本当の意味を知ったのは、もっとずっと後のことだった。
自分がいかに守られて育った存在であるかをそのときに初めて思い知った。

周囲のブルーに対する反応は、どこに行っても似たような感じだったらしい。
僕にはよく分からないけれど、敵国の王と通じた王子、ということらしい。
ブルーが自ら望んだわけでもないのに…。
やっと戻れた祖国でそのような扱いを受けて、ブルーはどれほど辛い思いをしただろう。


王族の男子ならば受けていて当たり前の教育どころか、普通ならば
子供が与えてもらって当然の愛情すらひとかけらも与えられなかったブルーの心を
立て直すのに、僕は色々考えをめぐらせた。

僕に頼りきりでしか暮らしていけない状態は、ブルーにとって良くないような気がした。
一人では何も出来ない自分に、ブルーはとてつもなく劣等感を抱いている。
だからまずはブルーが受けるべきだった教育を受けさせてあげることが先決だと思い、
将来僕の補佐をしてもらうという名目で僕は祖父と母上に相談した。
今ではブルーは数人の先生について基本の読み書きと学問を学んでいる。

ブルーは教育を受けられなかっただけで、さすがは元王族といおうか、
とても聡明で学んだことを物凄い勢いで吸収していく。
書物を読むほうがまだなかなかおぼつかないようだけれど、口頭で学んでいる哲学などは
元々苦手だった僕を追い越すような勢いで造詣を深めている。
食は細いながらもきちんと食事を取るようになったし、
朝夕は敷地内を一緒に散歩して体力を養うように心がけている。
今では馬にも乗れるし、腕力が無くても最低限身を守れるよう、
比較的体力で差が出ないレイピアを習っている。

勿論今でも竪琴は頻繁に弾いている。
時には、竪琴を爪弾くブルーの隣に座って静かな午後を過ごすこともある。
特に母上はブルーの弾く竪琴の音が大のお気に入りで
時折自分の好きな曲をブルーに頼んで弾いてもらっているのを見かける。
そんなとき、ブルーは少し照れ臭そうにしているけれど。

あまり自分からはあれこれ希望を口にすることはないけれど、
僕の提案は大抵きちんと聞いてくれるし、余程嫌な理由でもあればちゃんと言ってくれるようになった。
ここに来た当初に比べれば、見違えるような進歩だ。
なによりブルー自身が変わりたいという気持ちを持ってくれていることが、僕にとっては何よりも嬉しい。

少しずつそうやって自尊心を取り戻してきたせいか、
ブルーの表情も段々と明るいものになって来たような気がする。
ブルーは元々お喋りではないけれど、僕の話を聞くときの顔つきが最近は随分と
柔らかいものになってきた。



だけれども、どうしてもブルーに表情に付きまとう陰がある。
時折、ふと見せる顔が不安気に曇ることがある。
学問や教養を身につけるだけでは癒せない傷がある。


テラを脱出してから、僕とブルーは肉体的に触れ合うことをしていない。
勿論、僕はブルーに自分の気持ちを知って欲しいから、できるだけの愛情表現を心がけている。
手の甲や額、時には頬に口付けたり、必要なときには抱きしめる。
でも、それ以上のことには発展していない。
僕もブルーも、そうはっきりと口に出して言ったことはないけれども、
まだ時期が早いと感じているからだ。
テラの薄暗い地下牢であれほど交わったというのに、おかしなもので僕とブルーの間に
「あれは本来してはいけなかったこと」という共通の認識があるのだと思う。
ブルーはブルーで、僕に無理強いしたことに対し呵責の念もあるのかもしれないけれど、、
まだそういうことについて腹を割って話したことはない。
でも僕はいつまでも待つつもりだ、ブルーの心の準備が出来るまで。

ブルーは基本的に触られるのが嫌いだ。
というより、怖いのだと思う。僕が抱きしめると、体を固くして身構える。
あからさまに拒絶されないだけ、ブルーも努力しているのが分かる。
今は少しずつだけれど、抱きしめたときの緊張感が薄れているような気がする。
本能的なものだろうけれど、当初は恐怖で息を堪えているときすらあったくらいなのだから、大きな進歩だ。
地下牢で拷問されていたときは随分とブルーに好き放題されていたものだけれど、
今ならわかる。ブルーにあんなことが出来たのは、僕が縛られていたからだ。
もし僕が拘束されていなかったら、多分ブルーは怖くて僕に近寄る事も出来なかったに違いないのだ。

僕は朝夕必ずブルーに「綺麗だよ」と挨拶代わりに言うことにしている。
勿論ブルーは何も答えない。
気休めのようなものだけれども、沢山言うことで少しでもブルーの心に届けばいいなという思いがある。
最初はブルーは僕の言葉を全く聞こえないフリをしていた。
僕はくじけずに言い続けた。
最近は、聞こえないフリをする代わりに、ちょっとだけ僕の目を見てくれるようになった。
すぐ目を伏せてしまうけど、変化は変化だ。
近頃は「大嫌い」を言うことも少なくなってきた。
「大嫌い」というのはブルーなりに甘えてくれていたのだと思うけれど、
本人も色々思うところができたのかもしれない。





ある夜、僕が珍しく夜遅くなってから寝室に入ると、続き部屋の扉がほんの少し開いていた。

ブルーが閉め忘れたのかと思い、扉に近づいたら、なんだかくぐもった声が漏れ聞こえる。
またうなされているのかと思って僕は思い切ってブルーの部屋を覗いて見た。

月明かりに照らされた寝台の上。
ブルーが全裸で僕の方から良く見えるように脚を開き、自慰をしていた。
どんよりと情欲に濡れた一対の紅玉が、僕の姿を捉える。
妖艶な、花のような。
唾液にしっとりと濡れた唇から、懇願の言葉が漏れた。

「ジョミー………早く来て、僕を慰めて…」

ずくり、と僕の下半身が熱く重くなった。
甘美な毒のような囁きに、くらりと来なかったと言えば嘘になる。
想い人があられもない姿で誘惑してきて、興奮しないわけがない。

だけど…僕は気づいていた。

ブルーの目は僕の姿を見ていない。
僕の後ろに父上の姿を見ている。
ブルーの体が求めているのは、僕じゃない、ブルーを長年弄び続けてきた他の男だと。
まだ幼かったブルーを、男の前で体を自ら開いて淫猥に誘うように躾けた男だと。

差し出された手は、そうしようと思えば取るのは簡単だった。
ブルーと一緒に終わりのない欲に溺れてしまうのはもっと簡単だっただろう。

でも、今のブルーは父上の体を求めているだけで、別に相手は僕でなくてもかまわないのだ。
そう思うと、僕はなんだか哀しくなった。
僕と父上は、髪の色と目の色が同じなだけで、実際にはあまり似ていない。
それなのに、そうして、そんな影にでもしがみつかずにはいられないような体に
されてしまったブルーが哀しくもいとしくもあり、なんだかとても切なくなった。

頭で考える前に、僕の口を言葉が突いて出た。

「ブルー…僕は誰かの身代わりとして貴方を抱くのはいやです。」

それまで欲にどろりと濁っていた目が、はっとしたように僕を捉えた。
そのとき、初めてブルーの目の焦点が合ったような気がした。

「…隣の部屋にいますから、済んだら呼んで下さい、体を拭いてあげますから」

僕はそれだけ告げると扉を後ろ手に閉め、大きく深呼吸をしてから清拭の準備をした。
自分の寝台に横になって何ともなく天井を眺めていると、
続き部屋の扉の向こうから「…ジョミ…」と消え入るように僕を呼ぶ声が聞こえた。
僕はブルーの寝室に入ると、なるべくブルーとは目を合わせないようにして
その白い体と、付着した粘液を綺麗に拭った。

「…ごめんなさい…。」

泣きそうなか細い声でブルーが囁いた。

一体ブルーが何に対して謝っているのかはよくわからなかったけれど、
ブルーが謝らなくてはならないことは何一つ無いと僕は思った。
だから返事の代わりに僕はただブルーの髪に口付けた。
ブルーに夜着を身に着けさせると、彼をぎゅっと抱きしめて
僕はそのままブルーの寝台に一緒に横になった。

ブルーは自分が「汚い」ことに物凄く引け目を感じている。
でも僕はそんな風に感じたことはないし、それをブルーに知って欲しかった。
僕が出て行かなかったことに安心したのか、ブルーは少しの間だけ啜り泣いていたが、
髪を撫でていたらそのうちに静かな寝息を立てて寝入ってしまった。

翌朝ブルーと同じ寝台で目覚めた僕は、「おはようブルー、今日も綺麗だよ」と
いつもの挨拶をしてブルーの頬に口付け、何事もなかったように一日を過ごした。
その日一日、ブルーは一度も僕の顔を見なかった。
いや、見ようとしなかった。
なんだか必死になって一生懸命考え込んでいるように見えた。
僕はこんなとき、ブルーが自分の考えをまとめるまで静かに待つことにしていた。






そんなことがあってから、1ヶ月ほどが経過したある夜、僕はふと夜中に目を覚ました。
普段はこんな時間に目が覚めることは滅多にない。
なんだかふと嫌な予感がして、ブルーの部屋に続く扉を静かにノックしてみた。

「ブルー?」

応えはなかった。

僕は思い切って扉を開けてみた。と、ブルーの寝台はもぬけのからで、
バルコニーの扉が少しだけ開いていた。
バルコニーに飛び出してみると、屋敷の裏の湖に向かって歩いていくブルーの小さな姿が、
月明かりに照らされている。一体こんな夜中に外で何をしているんだあの人は!
僕は慌ててブルーの後を追った。

いきなり声をかけて怖がらせるのもどうかと思い、僕は岩の影に隠れた。
ブルーは寝巻きのままで、どうやら足も裸足のようだ。
ますます心配になってくる。
ブルーは湖のほとりに着くと、少しだけ水面を眺めて思案に暮れると、
意を決した様子でざばざばと湖の中に寝巻きのまま入っていった。

僕は仰天した。
いくら暖かい気候といっても、この季節、湖の水はまだ氷のように冷たい筈だ。
水浴びなんて冗談じゃない。
僕は慌ててブルーの後から湖に飛び込んだ。

「ブルー!」

「ジョミー?!君、一体こんなところで何をしているんだ!!」
振り向いたブルーが僕の顔を見て、びっくりしたように怒鳴った。

「それはこっちの台詞です!
 こんな冷たい水に入ったら風邪を引いてしまいますよ、早く出て!!」

抵抗して暴れるブルーを力に任せ、無理矢理引きずるようにして僕は彼を岸辺に引っ張り上げた。
あまりにも暴れるので、ひょっとしたら入水自殺でも図ったのではないかという考えが
ちらりと頭をよぎったけれど、岸辺についてその理由が分かってしまった。
濡れた寝巻きの上からすぐに目に入る、ブルーの下肢の変化に…。

ブルーは恥ずかしさのあまりか、冷え切った体を庇う様にして僕の視線を避ける。

「体を…冷やそうと思ったんだ。」

小刻みに体を震わせながら、ひどくばつが悪そうな様子でぽつりとブルーが呟いた。

僕は今度こそ掛け値なしに驚いた。
この人は、この一ヶ月の間、夜に体が熱くなる度にこうして外に出て
冷たい水に凍えながら浸かっていたのだ。
そういえば最近頻繁に微熱がありそうな様子ではあったけれど、
季節の変わり目だからかと思ってあまり気にしていなかった。
傍にいながらブルーのそんな様子に全く気づいてやれなかった自分を
蹴り飛ばしたくなり、僕はため息をついた。

「とにかく、体を温めないと…」

だんまりを決め込むブルーを、僕は屋敷の浴場に引きずって行った。
女性用の浴場はいつも使用人の誰かが控えているらしいが、
男性用の浴場は、時間が時間なこともあり幸いなことに誰もいなかった。
濡れてブルーの体にひっつく寝巻きを剥ぎ取るように脱がせ、
しばし悩んだけれど僕も自分の濡れた服を潔く脱ぎ捨てた。
僕が服を着たままブルーに一人だけ裸身を晒させるよりは、
二人揃って裸になったほうがブルーの気が楽になるのではないかと思ったからだ。
多少気恥ずかしかったけれど仕方がない。

ブルーはやっぱり何も言わないまま、僕にされるがままになっていた。

僕はブルーの手を引いて浴場に入ると、まず絡みついた湖の水草やらこびりついた泥を
ざっと洗い流し、大きな浴槽に手を繋いだまま入った。
ブルーと僕の体は触れない程度に距離があり、でも存在を感じる程度に近い。
ブルーは相変わらず目を伏せたままだったけれど、とりあえず僕の手は振り解かれなかった。

こうして二人でお風呂に入るなんて初めてだ。
しかも、並んで手を繋いで。なんだかとても妙な気分だった。
僕は先程からずっと気になっていたことを聞いてみた。

「ブルー…何か、嫌な夢でも見たの?」

多分また過去の夢でも見たのだろうという察しはつくけれど、僕の口からは言えなかった。
多分聞こえないフリをされるだろうと思ったのに、ブルーは顔を上げて僕の顔を見た。
何か決心を固めたような顔だった。

「嫌な夢なんかじゃないよ。…気持ちのいい夢さ」

僕は内心頭をがつんと棒で殴られたような衝撃を受けた。

以前のように自虐的な物言いではなく、ただ事実を淡々と紡ぐ台詞とは裏腹に、
ブルーの顔は傷ついていた。苦しんでいた。もがいていた…。

「全然嫌な夢じゃない。
 僕は君の父君に気持ちのいいことを一杯されて、気持ちよくて泣きながらイクんだ。
 沢山された分だけ、沢山夢を見る…。
 僕は夢の中で嫌がってない。いつだってそうなんだ。
 口ではどんなにイヤだって言っても、最後には結局気持ちよくなって、
 もっとしてって自分からお願いするのさ。
 そうやって、いつも熱にうかされたようになって目が覚める。
 僕は、そういう人間なんだ。
 何もかも、君の父君の言うとおりだ。」

一体僕の父上になんと言われたのか僕は知らない。
でも、ブルーは泣いていた。
涙を流していないのに、ブルーの心が助けを求めて泣き叫んでいるのが僕には分かった。
ぱっくりと大きく口を開けた傷口を抱きしめながら、涙をぽろぽろ流していたんだ。

「ジョミー。僕はね、君にとても感謝しているよ。
 でも、僕の身に染み付いた習性はきっと一生取れないよ。
 君が言うように、僕が綺麗になる日はきっと来ないよ。
 僕は、君には…ふさわしくないよ。」

ブルーは最後の言葉を言いながら顔をくしゃりと歪めた。
ずっと気丈に能面のような表情を保っていたのが、崩れたのだ。

でも、僕は嬉しかった。ブルーがそんなことを言うのは、
僕に「ふさわしく」なりたいとブルーが思っている証拠だから。
僕と一緒にいたいと、ブルーが思ってくれている証拠だから。
それなら、僕には、僕達には、まだ希望が残されているということだよね?

でも、泣きそうな顔で僕に向き合おうとしてくれているブルーに、
僕も真摯な態度で真っ向からぶつからなければならないと思った。

ブルーは揺れる瞳でじっと僕の反応を見ている。
僕は少しだけ考えて、口を開いた。

「ブルー。貴方はずっと人質として囚われの身で、抵抗できなくて、仕方のないことだったんだ。
 もし僕が貴方と同じ立場で同じことをされていたら、きっと貴方と同じ反応を示していたと思うよ。
 現に、僕も…貴方にされたとき、結局感じてしまったし。」

「でも、ジョミー……。」

「こうして僕の隣に座るの、イヤ?」

「イヤじゃない、でも…」

「ね、ブルー。僕の体をよく見てみて?僕も、貴方と一緒になってるでしょ?」

「ジョミー…っ」

ブルーが軽く息を呑むのが分かった。
傷ついているブルーの前で自らの欲を律することができずに、
こんな状態の自分を見られるのは正直言って死ぬ程恥ずかしい。
でも、ブルーのためならどんな醜態を晒しても構わないと僕は思った。
僕のちっぽけなプライドよりも、ブルーのほうが何倍も大事だから。

「触れられたら反応してしまうのは自然なことだし、今の僕みたいに
 好きな人の前でこんな風になってしまうのも普通のことなんだよ。
 ブルー、全然汚いことじゃない。
 もし貴方が僕のことを好きになってくれなかったとしても、
 きっと貴方がいつか他の誰かを好きになれば、その人のことを考えて
 体が反応するのはちっともおかしいことじゃないよ。
 ブルーが汚いっていうんなら、僕も汚いよ。
 ブルーは僕のこと汚いって思う?」

「違う!ジョミーはそんな…。」

「ね?一緒だよ、僕もブルーも。」

そう言って僕は繋いだままだったブルーの手の甲に口付けを落とした。

ブルーは今までそんな風に考えたことがなかったのか、それとも単純に僕の言動に驚いたのか、
目を丸くして、それからほんのり頬を赤くして長いまつげを伏せた。
『もっとよく自分で考えてみる』という時のブルーのいつもの仕草だ。

僕とブルーは手を繋いだままお風呂でゆっくり体の芯から温まって、
それから僕はやっぱりブルーの手を引いて寝室に引き上げた。
その夜僕はブルーを抱きしめて眠りについた。
ブルーはまるで子供のように体を丸くして僕に身を任せて寝入ってしまった。

翌朝、いつものようにブルーに「おはよう、今日も綺麗だよ」と挨拶をすると、
ブルーはやっぱり何も言わなかったし、すぐに目を伏せてしまったけれど、
その前に少しだけはにかんだような表情で、僕の指先をぎゅっと握った。



その日から、過去の夢にうなされるとブルーは夜中に僕の部屋の扉を控えめに叩くようになった。
僕が何も言わないで毛布の裾を持ち上げると、ブルーも何も言わないで滑り込んでくる。
そうして僕がブルーを抱きしめてあげると、ブルーもほっとしたように体の力を抜いて
眠りに落ちるようになった。


そう、今みたいに。
僕の腕の中ですやすやと眠るブルーは、先程までとは打って変わって
安心しきったような表情をしている。
夢にうなされる頻度も、以前に比べると減ったみたいだ。

変化は少しずつ、少しずつ。
でも、ブルーの中で確実に何かが変わっていく。
ブルーが僕を好きになってくれる日は、来るかもしれないし、来ないかもしれない。
それでも、ブルーは自分の足で新しい人生に踏み出そうとしている。
だから、許される限り僕はブルーの傍にいてあげたい。


貴方の顔に微笑みが花開く、その日まで。